銀英男女カップル書きに30のお題

ミッターマイヤー×エヴァンゼリン編

 

 

2.蜂蜜

 

 花が美しいのはなぜだろう
 それはね 蜜蜂たちを呼ぶため
 花が甘い蜜をたらすのはなぜだろう
 それはね 蜜蜂たちを呼ぶため

 花粉を遠くへ遠くへ運んでもらえるように
 命をつなげるように
 永久に生命の環がひろがってゆくように

 きれいに花咲く


 ハイドリッヒ・ラングという人物は
 公の場で煙たがられていた
 ウォルフも嫌い
 大嫌い
 彼が嫌悪するものを
 わたしが愛することはありえない

 それでもわたしは女だから
 どうしてもラング夫人のことを想ってしまう

 お節介
 同情というハンカチに隠された
 優越感 なのかもね

 ラングは私生活では
 よき夫であり
 よき父であった

きっとあなたのように

子どものいるわたしたちの家庭みたいに

ともにふれあい

たくさんの蜜月をすごして

百万の花咲かせ

ともにまどろむ

 想ってしまうの
 あなたがいなくなったらって
 わたしはきっと
 悲しみのあまり涙もでない
 きっと呼吸困難におちいって
 そのまま天上へ逝ってしまうわ
 そっちの方が楽かもしれないけれど

 どうして女はきれいになるの
 それはね あなたが愛しいから

 命の翼を ひろげてゆきたいから


 ウォルフに抱きつく
 彼はくすぐったそうな声で笑う
 蜂蜜色の髪は ゆるやかに輝く

 ウォルフ
 ウォルフ
 わたしのかわいい狼(ウォルフ)

 どうかわたしの翼をもがないで
 どうかわたしの蜜を集めていって

 どうか、死なないでくださいましね

 

 


3.死ぬほど

〜事件後の話〜
「エヴァがいなくなれば、おれは死ぬ」
 それはごく自然な動作で発言されたので、はじめバイエルラインは、それが彼の愛妻に関する話題だと気づかなかった。
 執務室の椅子に座った上官は、真剣な面持ちのままだ。
 彼の敬愛する上司、ウォルフガング・ミッターマイヤーの魅力は、陳腐でも心情のこもった台詞を言うところだろう。
 バイエルラインは退室しかけた足をそろえ、ミッターマイヤーと向きあった。
「存じております」
 蜂蜜色の頭髪をふり、「ならいい」と彼は部下との会話を終わらせた。
 それからふたりの間で、ミッターマイヤー夫人エヴァンゼリンの話題があがることはない。
 バイエルラインは、ときどき手土産をもってはミッターマイヤーの屋敷を訪ね、彼女のもてなしをうけた。


〜事件は突然やってくる〜
 雪とも雨ともつかない、霧のようなものが、白い天蓋からおちてくる。
 バイエルラインは、ミッターマイヤー家へ急いでいた。
 地上車を拾いそこね、徒歩で上官の家へと向っているのだ。
 いい葡萄酒がはいったことを口実に、尊敬するミッターマイヤーと酒を飲みかわしたかった。
 ただそれだけの、たあいもない理由で、軽々しく外出してしまったことが悔やまれる。
 ミッターマイヤー家の屋根が視界にはいると、バイエルラインは歩く速度をあげて、門をくぐった。
 庭には白い小さな花が咲き乱れ、湿気の重さに首をおとしている。
 バイエルラインは呼吸と衣服を整え、露を払ってから、玄関のチャイムを鳴らした。
 一階の窓から光がもれていたので、いつもならばすぐさま、エヴァンゼリンがやわらかな笑顔で迎えてくれるはずだった。
 だが、押せども押せども、反応はない。
 バイエルラインは困り果てた。
 風呂にでもはいっているのか、うたた寝をしているのか。
 外は寒々として、彼としては一刻も早く、屋内に入りたかった。
 そっと、遠慮がちに扉を押すと、暗い廊下がつづいている。
 バイエルラインは息をついて、非礼を心のなかで詫びつつ、屋敷のなかへ入っていった。
 遠くに、ドアの隙間から光のもれている部屋がある。
 開けると、ソファに細い身体をあずけた、ミッターマイヤー夫人エヴァンゼリンの姿があった。
 編物の途中で寝てしまったらしい。
 クリーム色の豊かな髪に、清らかな童顔をたたえている。
 桃色の頬に金糸の睫毛のかかったようすに、バイエルラインは胸がとびあがる音を聞いた。
 サド侯爵の秘密の部屋を見てしまった娘の気分だ。
 だが、ここでこのひとに声をかけなければ、ただの不法侵入者となってしまう。
 バイエルラインはつばを飲みこみ、おそるおそるエヴァンゼリンに近寄った。
 「女性(にょしょう)と付きあうなどたるんでいる証! 男は黙ってさびしく××××!!」という体育会系のノリで純粋培養されたバイエルラインは、気恥ずかしさのあまり卒倒しそうだった。
 が、なんとかエヴァンゼリンの半径1メートルまでこぎつけることができた。
 一歩一歩、早鐘のような心臓をかかえながら、エヴァンゼリンに歩みよる。
「ミッターマイヤー夫人」
 呼びかけても返答はない。
 しようがなく、顔をのぞきこむようにして、少し大きな声で名前を呼ぶ。
「ミッターマイヤー夫人!」
 エヴァンゼリンは目を薄く見開き、微笑する。
「あら、もうお風呂からおあがりになったの、ウォルフ」
 バイエルラインは飛んでエヴァンゼリンから離れる。
「小官はミッターマイヤー元帥ではありません!」
「また、いつもの冗談ですの、ウォルフ」
「だからウォルフではありません!」
 彼はまちがいなく真実を述べたはずなのに、エヴァンゼリンはくすくす笑ってとりあわない。
「冗談はおよしになって」
 寝ぼけているのだろうか、バイエルラインがそう思うひまもなく、エヴァンゼリンは白魚を思わせる腕を、彼の首にまきつけた。
 バイエルラインは叫び声をあげてしまう。
「やめてください!」
 予想外に甲高い、女性のような声になってしまった。
「エヴァ!」
 勇敢な男性の声が響いて、遠くから足音がやってくる。
 そして、黒い影が扉を開け放ったかと思うと……
 銃撃音がして、バイエルラインは記憶を失った。



〜事件後の話2〜
 ああ。
 恋愛はいつだってありきたりで、そして真情にあふれているものなのだ。

 などと、あまりにもバカのひとつ覚えな展開に頭痛を感ずるひまもなく、バイエルラインは病室で上官から真心のこもった謝罪と、エヴァンゼリン手製のお菓子をたっぷりともらった。
 夫婦は毎日のように病室を訪ねてきた。
 おかげで、頭についたかすり傷が治り、彼が退院するころには、体重が増加して、ほのかに慕っていた女の子に嫌われたりしたのだが(そして、彼は上官に「軍が恋人です」といやみを言ったのだが通じなかった)、それはまた、別の話だ。



「エヴァがいなくなれば、おれは死ぬ」
 軍務に復帰したバイエルラインは、廊下を歩きながら、上官の台詞を口にのせた。
 そして、おそらく、彼なりの照れ隠しなのだろうと思った。

 

 

 

6.黄色いバラほどじゃない

 結婚10周年記念として、ビッテンフェルト提督からサイネリアという花をモチーフにした花瓶をもらったんだ。

 あらあら、すてきな花瓶ですね。
 少し青みのかかった透明な色合いといい、繊細な絵柄といい、とっても綺麗じゃないですか。

 でもなぁ、エヴァ。
 サイネリアの別名は「シネラリア」だぞ。
 死だぞ死。いかにも縁起が悪いじゃないか。

まったくビッテンフェルトのやつも、これだから猪突猛進バカと言われるんだ。

いや、関係ないか……。

 まぁ……。
 でも、あなた、そんなの黄色いバラに比べれば、ずいぶんましですわよ?

 うっ!
 そんな昔のことを持ち出すのは卑怯じゃないか。

 そうかしら。
 お友達にいったら、笑われましたのよ。

 あの時は混乱していたんだ!
 君に求婚するって、断られたらどうしようって。

 はいはい、そうですわね!
 ふふふ、ウォルフ、でもこの花瓶も、見ようによっては縁起がいいじゃないですか。

 え? なんで。

 だって、縁起の悪い花言葉の黄色いバラを贈られたわたしは、いまとっても幸せな結婚生活を送っていますもの。
 きっと、この花瓶を置いておけば、死が遠くなりますわよ。

 それもそうだなぁ……。
 うん、エヴァは賢い!
 やっぱりぼくの選んだ女性だけあるよ。

 お褒めにあずかり、光栄ですわ。


 サイネリアの花瓶は
 黄色いバラほどじゃないだろうけど
 きっと新たな幸せを
 この万年新婚夫婦に贈ってくれることだろう

 

 


 

8.久しぶり

 蝶々のように、あちらこちらへ呼ばれつつ、傘がなだらかな坂をゆく。
 川辺の道はゆうるりとつづき、草は碧を誇り、雨は白く色づいている。
「ごらんエヴァ。
 紫陽花が咲いているよ」
 買い物袋をさげた男性は、対岸の花を指さした。
 連れあいの女性は、唇に手をそえて、目を細める。
「まあ、きれいね」
 淡い色調の紫陽花が、雫を抱いている。
 清楚な娘を思わせる風情に、温かな心持ちになった。
 自然と笑みがこぼれる。
 すると、男性は自慢げに言った。
「車にしなくてよかっただろう。
 ひさしぶりには、こんな散歩も」
「よろしいことですわね、ウォルフ」
 微笑むと、男性は赤らめた頬をかく。

(はじめていっしょに歩いた時も、こんな風。

買い物を母に頼まれた少女の荷物持ち。

何も言わなくても、彼女は自分の好物ばかり詰めこんで。

彼女は人の心がわかるのかと思った。

その時から、静かに未来を予想した。)
 やわらかな雰囲気がひろがり、男性はとめていた歩を進める。
 女性は、背中にそっと貌をちかづけて囁いた。
「あなた、ウォルフ」
 空気がさざめく。
 夫の動揺するようすを感じて、妻は小さく口角をあげた。
 雨音がしとしと、影のように、ふたりのうしろをついてくる。
 ノスタルジアを感じながら、ふたりはよりそって歩きつづけた。



 

9.シチュー

 

 ことこと
 ことこと
 幸せは鳴る


―シチュー―
 三日三晩煮こみましょう
 あなたのために煮こみましょう
 人参、ジャガイモ、ほうれん草、鶏肉……
 ことこと
 ことこと
 うまみは染みでる
 普段は野菜嫌いのフェリックスだって
 シチューだけは喜んで食べるの
 ナプキンを汚して
 口元に白いおひげを生やして
 まあなんてかわいいの

 ことこと
 ことこと

 小さく鳴るわ
 白いシチューは幸福のときをあむ



「おや、今日はシチューかい?」
 あの人はくんくんする
 わたしは笑う

「残念、今日はお肉とスープよ。
 シチューは明日、それまでお待ちになってね」

 あの人は
 子どもっぽい動作で肩をすくめて
 どこかへ行ってしまったわ

 白いシチューはムッターの味
 殿方をみんな子どもに帰す魔法薬

 

 

そういえば

あなたの一番はじめに食べた

私の手料理はシチューだったりして

覚えてらっしゃる

 

お味をたずねた私に

むせこみながら

おいしいと叫んで

それから顔を真っ赤にされた

かわいいあなた

 

あの時

愛すべきあなたの存在に

はじめて気づいたわ

 

ムッター

なに笑ってるの

あやしいよ

 

はいはい

フェリックス

お父さまがさびしがるわ

お台所なんてこないで

遊んでらっしゃい

 

はあい

 

ぱた 、 ぱた、ぱた……

 

よお、フェリックス

この腕白坊主

 

ファーター たかあいよ

 

重くなったな

さすがおれの息子だぞ

健やかに育てよ

でかくなれよ

ロイエンタールを見返してやれ

 

遠くで聞こえる

父と息子の遊び声

また

ちょっとあやしく笑ったりして

 


 ことこと
 ことこと
 幸せは鳴る






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